revenge ~from bad end~    第2話


「しばらくぶりだったね。よい仔にしていたかい?」

 調教室に訪れた「主人」の靴にキスをし、顔を上げた俺を優しくなで上げ、額や頬に優しくキスを落とす。

 この1ヶ月半俺は焦燥にやかれ、焦げた身体を持てあましていた。どうやって、「主人」に取り入るかばかりを考えていた。

 このまま呼ばれなければ、違う手を考えなければならない。自傷でポルタ・アルビスに運ばせることも考えていた。

「少し顔が細くなったかな」

「・・・もう、来て下さらないかと・・・」

 嘘をつく舌はなめらかだ。

「かわいいことを」

 俺は膝立ちになり、奴の服に縋りキスをせがむ。思い通りに奴は俺のうなじに手をあて濃厚なキスをした。

「・・・ん、あ・・・ふぅ・・・」

 長いキスにいい加減にしろと思いながら、自制する。今日は奴の望むままにしてやり、最後にねだるつもりでいた。

 この前の仕事について話してほしい、と。

 最初から、うまくゆけばいい。セックス以外、仕事で使えると判断されれば、ここからでる違う道が見えるかもしれない。だが、さらに慎重に出方を伺いつつことを進めなければ。いい加減尻に火がついてるだろう。アクトーレスは今日もあいかわらず俺を監視している。

 突然、かちゃんと音がした。

 アクトーレスの横にあるケージにかぶせられた布がわずかに揺れている。
 わずかな驚きと同時に唇の端をかまれたことで身体がはねる。

「ん、ふはっ・・・」

 よそ見した俺に気づいた「主人」が唇を離すが、そのまま唇は首筋に降りていく。

 後ろに優しく倒され、尻が冷たい床にふれ、押し倒される。体温が上昇していることを知った。

 「主人」が俺に奉仕を強制させることは少ない。たいていむさぼられるだけだ。そして、そのやり方の方が俺にとって楽だった。

 胸のピアスをいじられ、首筋を舌でねぶられ、脇腹を手のひらで愛撫される。胸の痛みを快楽につなげようというのか「主人」はことさら熱心に身体全体を使って愛撫してくる。

 下が反応を始めていた。

 思う存分胸をいじった手がさらに下がっていき、期待していると思わせるように、そっと足を広げる。

 片足を担ぎ、唇を内股にはわせしばらく焦らした後、俺自身をやっと愛撫した。

 下からなぞりあげ、しわを丁寧に伸ばすようにゆっくり愛撫し、先端に軽く爪を立てる。

「ん、はぁっ・・・あっ・・・」

 俺は完全に勃ち上がった。

 もう、待てないと思わせるように床についている足に力を入れ、腰を浮かせて揺らす。

「久しぶりだから我慢できないのか?はしたない仔だ。」

 笑みを隠さない表情に、何か企んでいる節は見あたらないが、頭のなかではわずかに警報がなっている。
 警報の原因のゲージが気になるが、「主人」が話さない以上どうすることもできない。

 片方の手で俺を愛撫しながら、そこにアクトーレスにローションを垂らさせる。?立が卑猥な音をたてたのに満足したのか袋を揉み込む。俺はたまらず声を上げた。空いている手は依然胸のピアスをいじり、引っ張りあげる。

「くぅ・・・」

 いきなり指を突き立てられた。

 前立腺をいじられれば、その場の衝動にさっさと任せることができる。久しぶりの異物感をやり過ごしながら、「主人」が俺の身体を丹念にほぐしていくのを待った。

***

「ん、ああ、はぁ・・・も・・・もう、早、くっ・・・ぅ・・・」

(あいかわらず良い尻だ)

 しかし、これも自分をたらし込むための仕草なのかと思うと苦い物がよぎる。

 アクトーレスに目配せし、フィルの手首にベルトを巻き、繋いだ鎖をまだ十分にたるみを持たせて天井からつり下がった輪につなげる。

 達したくて朦朧としはじめているフィルには、どう映っているのだろうか。

 達かないようにローションと愛液でぬめるペニスの根本を片手できつく握り、仰向けのまま指を3本突き入れてやる。生理的な涙が頬を濡らし、腰が踊る。両手は縋るものをもとめばたつき、そのたびに鎖が音をたてる。

 その場の快感のみを欲している。このフィルにとってセックスは溜まったものをはき出すだけ、そして「主人」を懐柔するための手段。むさぼられるがままに決定的な瞬間を待っている。

 それを思う今、苦いものがわきあがる。

 さて、そろそろゲージの中も退屈しているだろう。

***

「尻を出しなさい」

 朦朧としてきている頭では理解に一瞬遅れた。

「ん、・・・はっ」

 指を奥に突き立てられたままよろよろと上体をねじり手首から伸びる鎖を鳴らし、うつむき加減に「主人」を見上げながら四つんばいになる。

「あ、・・・ご・・・主人さ・・・ああっ」

 指を一気に抜かれ、中途半端にされた身体が揺らぎ出す。

 アクトーレスに指示したのだろう、鎖が巻き上がる音がして両手が持ち上がっていく。途中、手首のベルト同士もアクトーレスによって繋がれる。

 鎖はさらに巻かれ、上体を起こされる。反動で膝を折り尻が床につくが、体勢はそう辛くない。尻から流れるローションが粗相したようで不快だった。

 鞭を打ちたくなったのだろうか。
(そうしたらポルタ・アルビスに行けるな)
 頭の隅では冷静な自分が考えていた。

 正面には「主人」が片膝を立て、俺に手を伸ばしてきた。

 顎をとられ深く濃厚なキスをされる。

 もう片方の手で尻たぶを揉み込み、外側に開くようにされた。快感が背筋を上り、思わず腰を浮かす。

「んんっ・・・ん、はっ・・・」

 唇をむさぼられながら、いつの間にか背後に回ったアクトーレスが開いた尻たぶの奥に立て続けに2つ押し込んだ。

 冷たい感触に肌がざわめき、鳥肌を立てた。

 いつのまにか「主人」に縋るように、スーツに身体をなすりつけていた。ピアスが擦れ胸が痛むが、火がついた身体は極みを目指して考えてもいないことをする。

「は、はぁ、はぁ・・・ひぃっ」

 唇が離れていき、ほっとした一瞬、俺自身に訪れた苦痛にうめいた。
 下を見やると、ペニスにはリングがはめ込まれていた。

「少し我慢すれば、もっと良くなる」

 耳元にあつい息を吹きかけながらささやくと「主人」の身体が離れていった。

 「主人」は用意されいた椅子に腰掛け、サイドテーブルに置かれていたワインに口をつけた。
俺との距離は5歩程度。

 アクトーレスの姿を探すと、あのゲージから布を外していた。

 中には、両手を後ろで拘束され、声を出せないようギャグを加えさせられ、目隠しされた少年がいた。

 俺と同じ髪の色で白い肌、口からは涎があふれ塗れて光っている。年は15、6だろうか。尻にはしっぽをはやし小刻みにふるえている。

 アクトーレスはゲージから、少年を引きずり出し、抱えて「主人」の足下でおろした。目の前にきて初めて少年の足に指がないのがわかった。

 かすかにバイブの音がする。動かされた刺激で少年の身体がぴくぴくはねる。
 混乱し驚いている俺に、「主人」は声をかけた。

「フィル、お前はなにが好きだ?」

「・・・ご主人様です」

 肉体の苦痛と混乱の中、解答を探す。

「ああ、そうじゃない。好きな食べ物や好きな酒、好きな風景、好きな絵画、好きな音楽だ」

 笑顔の「主人」の意図をくめない。何が正解だ?

「ああっ、く・・・はぁ」

 とまどった俺に落胆を見せながら、アクトーレスから手渡された物をいじった途端、俺の尻の中で先ほど埋め込まれた物が動き出した。

 正確には、一番目に入れられた物だ。ローターだったらしい。

 まるで尻に栓をするかのようにわずかに先を残していれられたのは、バイブなのかディルドなのかよくわからない。
 とにかく動き始めたのはローターの方だけだ。

「ここでだされる食事で好きなものは?」

 しゃべらなくては。とにかく何かしなければ終わらないのだ。

「・・・ス・・・ープ・・・んんっ」

 荒い息のなかで精一杯答える。ローターが少し降りて、ディルドに振動を伝える。

「なんのスープが好きだ?」

「ポテ・・・ト・・・」

 少し振動が弱まったようだ。

「ああ、私もあれは好きだね。とくに冷製のものがいい。では酒は?」

「・・・ワ・・・イン」

「音楽は?」

「ヴァイ・・・オリンっ」

「クラシックか。作曲家は?」

「ド・・・ヴォル・・・ザー・・・」

「初めて聞いたのはいつ?」

「・・・ハイっ・・・スクー・・・ルの・・・」

 俺は混乱し始めていた。
 尻の中では微弱な振動が続いていて、返答が遅れると「主人」が強くしたり弱くしたりした。一番欲しいところには、ディルドが陣取っていて満足な刺激を与えてくれない。

 これを質問する意図はなんなのかと混乱の中、片隅で冷静な俺が考え始めているが、答えをせかされるのと尻の振動でうまく考えられない。脇を見やれば、油断なくアクトーレスが鞭を手にし、指示を待っている。

 ペニスがいきり立っている。先からあふれ出しているが、どうにもならず、内股をふるわせる。

 そんな俺にかまわず、「主人」はいろいろな質問をしている。ときおり俺の話に合いの手をいれて。

絵画は?
モネの何の作品がいい?
どこでみた?
実物はみれていないのか?ポスターは?
装飾は好きじゃないか。家具はどこのものがいい?
機能性重視だな。色は?
想像すると生活感がわかないな。服は?
オーダーしたみたことは?
タキシードくらいか。ネクタイの色は?
地味だな。靴は?
手入れは自分でするか?
携帯はなにを基準に選ぶ?
PCは?
好きな植物は?
動物は?
スポーツは?

 どうでもいいことばかり聞いてくる。なのに、だんだん自分が剥かれているかのようだ。すでに何も身につけていないというのに。苦い自嘲がこみ上げる端から、快楽に乗っ取られる。


         
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